平成7年から12年頃にかけて、教育の世界の変化がありました。
学校の週5日制の完全実施。教員評価制度(給与に反映)。
進学実績、就職実績による学校評価などですね。
◆重視されたのは進路実績
就職希望者の就職率と、国公立大学の現役合格者数とが重視されました。
就職率、国立大学進学者数について、都道府県・学校単位で比較したのです。
そして、現場にノルマ、校長にミッションとして課したのですね。この要請は、議会・市民からのものです。で、実績を上げたら予算を増やすとしたのです。
◆しかし、現実には…
就職を例にしましょう。
高校生は未成年ですから、大学生のように自ら就職活動を行うことはできません。
企業は職安を通じて高校に求人票を届けます。高校生は、この求人票を見て、希望の職種から受験企業を選択します。
私が調査したある実業高校では、平成バブルの頃、4000件届いた求人票は、平成10年頃には200件程度まで減ります。つまり、就職を希望する高校3年生の在籍者数よりも、求人数の方が少ないのです。
これでは、就職率100%の達成はあり得ません。子供たちに、希望の職種・企業の「選択」は成立しません。
合同説明会を設けたり、現場の先生方だけでなく、行政職の私たちも「企業訪問」を繰り返し、就職先の開拓を行いました。電話でアポを取ってから訪問をすることもありますが、実態は「飛び込み営業」でした。しかも、現場の先生は授業をしながらです。午前中授業をして、午後は企業訪問、夕方に学校に戻って会議~部活動指導です。
◆国公立至上主義?!
国公立大学進学者数が少ない学校はダメな学校で、それは先生が仕事をしていないからだそうです。そして、子供たちの進路希望を「国立大学」に誘導する先生が良い先生なのだそうです。
「将来はどうするの」という質問に、「国立大学に行きたいです」と子供たちが答え始めたのはこの頃。つまり、「国立大学を志望すること、合格することが良い生徒」という価値観が子供たちに蔓延し始めたのです。
結果、就職率は伸びました。共通テストの受験者数も、国公立大学合格者数も増えました。
さらに、不登校の数、いじめ件数、大学中退率、新卒就職者の3年以内離職率も増えました。
◆競争原理の導入を主張する人に見えていないこと
学校間、教員間に「進路実績」という数値を競わせることで、実績は上がりました。
そのため、今でも「実績を高めるのは競争が有効だ」と考える大人は少なくありません。しかも、「公務員×先生」は、世間知らずで民間の厳しさを知らないから、どんどん「競争させろ×ノルマを課せ」という議会の圧力も強いです。
しかし、ここに一つ課題があります。
就職先・進学先を決めるのは、「生徒」なんです。教育の主役は「子供たち」のはずです。ところが、実績競争の主役は「先生」になります。主役を先生にした教育は、どうなんでしょうね(笑)。
現在の医療は「患者中心」です。インフォームドコンセントが重視され、治療方針には患者の意志が反映されます。それは、医師主導の医療、白い巨塔の反省なんですね。
ところが、学校教育については、未だに「先生主導」を求め、学校が「白い巨塔」になっている場面を見聞きします。教育に「競争原理による成果」を求めると、どうしてもそうなるんですね。
この反省が、現在の教育改革の背景の一つのはずです。
つまり、教育の主体を「学校・先生」から「生徒」にするということです。
今の子供たちは、未熟だから大人が指示・判断して導くのだという時代は終わったのです。生徒が自ら学ぶことを支援する。その方法として、探究学習やアクティブラーニングなどがあるということです。