早期退職したら、東京を離れようと思っていました。
転勤の多い暮らしで、地方の魅力を知ったことがきっかけです。
しかし、本当の理由はちょっと違います。
◆私の知っている東京
練馬で生まれ、父の転勤でしばらく東京を離れた後、世田谷で暮らしました。
世田谷と言っても、富裕層エリアではありません。まだ畑が残る端っこの方で、実家は井戸水というのどかな暮らし。まだ「武蔵野」の面影がありました。
人間関係も穏やかで、東京ではいじめや、攻撃的な言動とは無縁の暮らし。
中学時代、転校先で「東京モノ」と言われていろんな思いをした私にとって、東京は、穏やかに暮らすことができる「地元」でした。
◆私の知らない東京
公務員に転職し、地方転勤と東京勤務を繰り返す暮らしが始まりました。
やがて、地方勤務から東京に戻るたび、違和感を感じるようになりました。
プライベートでは浅めでも、ビジネスでは敬意をもって接する。
本音を主張しつつも、お互いに一歩ずつ引いて合意する。
そんな「東京の穏やかさ」「公共のルール」が、徐々に失われていくのです。
競争・成果だけを求め、そのためなら手段を択ばず、主張を通すために相手を攻撃する。しかし、本音は決して語らず、面従腹背の二面性で他者を貶める…。
時代の変化、価値観の変化に逆らうことはできません。しかし、やはり、失われて欲しくないものもあるんですが…。
◆ふるさとは遠きにありて思うもの
では、地方暮らしに適性があるかというと、私にはありません(笑)。
ただ、「地方都市」の暮らしには、昔の東京の穏やかさが残っていることもあります。よそ者に温かく、下町的な安心感を感じる場面も少なくありません。
というわけで、東京は思い出としてとっておくことにしました(笑)。
東京とは距離をとることで「美しい記憶」のまま残します。
◆蛇足
東京を私の知らない街にしてくれたのは…。
政権与党、ここ最近の知事や首長。つまり「東京はダメだから」「公務員は使えないから」という前提で乗り込んできた政治家のような気がします。
もちろん、このままではダメです。それは間違っていません。しかし、オリンピックがなくても東京はやっていける街なのです。
否定から入ることは、東京でも地方でも、街を殺します。私が期待しているのは、地元を無条件に愛することができる若い世代です。彼らを守りたい。そして、東京の過ちを、全国に広げたくない。
人口が多いことが、人の命を奪う要因になってはいけない。コロナで住めない街になって欲しくない。
早期退職しての心残りは、その思いです。
小説「ナイン」(井上ひさし)の舞台です