テーマ「無自覚なパワハラとは」
職場で、ハラスメント防止講習を受けた方も多いと思います。
難しいのは「ハラスメントの基準の理解」です。そこで、「ハラスメントの基準」ではなく、「無自覚なパワハラ」が発生しやすい事例を集めたことがあります。その一例は↓
若き日に、世の中をもっと良くしたいと思った。
そのためには、出世してトップにならないといけないことを知った。
出世してトップに立ち、世の中や会社をもっと良くするために頑張った。
ある日、人事に呼ばれ「パワハラ」の宣告を受け、全てを失う。
◆目次
おじさんたちの若き日々
おじさんたちは、戦前生まれの両親のもとに生まれ、学生時代を上下関係の中で過ごしました。進学して、大学で体育会系運動部に所属すると、1年生の時は「押忍」だけで過ごせます(笑)。
合宿では、先輩方の食事、ベッドメイキング、風呂では「三助(わかりますか)」などの世話を焼き、真夜中に呼び出されて自己紹介からの一芸を披露、その他に練習会場準備もあります。そんな「1年生=奴隷」「4年生=神様」という年功序列的格差社会を経て社会人になります。
バブル期の就職活動に於いて、体育会系運動部出身者は有利とされていました。「理不尽な上下関係」を体験していることが評価の対象だったのです。
とは言え、これ、全部「パワハラ」ですね(笑)。
女子部員の扱いは全て「セクハラ」。全体に「いじめ」とも言えます。そんな古い価値観の中で過ごしてきました。
おじさんたちの価値観
ただ、おじさんたちの世代は「理不尽な上下関係」に疑問を持ち、これを改善しようとしたのです。
自分たちが「4年生=神様」になった時、「下級生に上級生の世話」をさせることを廃止しました。「自分のことは自分でする」「年功序列よりも実力」で集団運営を試みたのです。
ただ、ここにおじさんたちの弱点があります。
頭は「新しい価値観」でも、身に付いているのは「古い価値観」です。結果、どちらが「本当の自分」なのかは曖昧です。人間は「本当に身に付いた価値観」に基づいて思考・判断をします。ですから「新しい価値観」が「おじさんたちの身に付いたもの」でない場合、頭では新しい価値観で考えているつもりでも、思考・判断・行動は「古い価値観の具現化」に過ぎないのですね。ここがおじさんたちの弱点です。
ただ、おじさんたちの中にも「新しい価値観」を身に付けた人はいます。
その人たちは、若き日に「新しい価値観を身に付けた上司、同期」と出会っているんです。つまり新しい価値観のロールモデルを見て、無意識に学び身に付けているのです。
逆に言えば、こういう出会いがなくロールモデル学ばないまま自分が上司になると、非常に危険と言えます。
パターナリズムとは「強い立場にある者が、弱い立場にある者の利益のためだとして、本人の意志は問わずに介入・干渉・支援すること」です。
このパターナリズムの定義を書き換えると、無自覚なパワハラの定義になると思っています。
「上司が、部下のためだとして、部下の意志を問わずに仕事に介入・干渉・支援すること。」、これを部下に実行してしまうのです。
部下を信じていますし、役割も任せています。そこで上司は、いい意味で何もせず待っていれば良いのですが、それができない。部下の仕事の粗ばかり気になってつい口を出してしまうパターン。上司やチーム外の人からの「大丈夫なの」という指摘に応えようとしてその改善に走ってしまうパターン。トップが何もしないわけにいかないという無駄な罪悪感を抱き自分で動いてしまうパターン。おじさんたちのこういう動きは、いずれもチームの和を乱し、部下からは「方針のブレ」と思われます。そうなると、おじさんたちは一層焦り、部下を「指導」しようとします。この時「父性的に叱る」ことになります。ちょっと「圧」が強いです。おじさんたちの世代からすれば、「父性的に怒られること」「怒られて怖かったこと」は「経験済み」なのですが、部下にそういうことを理解できる者は少ないです。
こうして、新しい価値観のロールモデルを学ぶことなく出世したおじさんは、パワハラ認定され、全てを失います。もちろん、おじさんは「部下のため」「部下の利益」という「好意からの言動」と認識しており、結果として成果を達成している場合も多いです。
でも、令和ではパワハラなんです。
無意識なパワハラとはパターナリズムではないかという仮説でした。
これは、現役時代、職場内で実施した講習会で公開した発想です。
私自身への戒めも含め、書き残しておきます。